白鴎大学 HAKUOH UNIVERSITY

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【プレスリリース】中学校理科の遺伝分野で扱われる「優性」「劣性」の認識調査を実施

2018/08/30

【プレスリリース】
白鴎大学教育学部の山野井研究室が中学校理科の遺伝分野で扱われる「優性」「劣性」の認識調査を実施 -- 誤概念の修正を意図した授業を考案


白鴎大学教育学部(栃木県小山市)の山野井貴浩准教授の研究室は、昨年、日本遺伝学会が「優性」「劣性」の語を「顕性」「潜性」に改めると提案したことを機に、どのくらいの中学生が授業を通して誤った概念を有しているのかについて調査を実施した。また、その結果をもとに、関連する誤概念の修正を意図した授業を開発。「生存に適さない優性形質」を題材とすることで、誤った概念を改善できるかどうかを検証した。


■本件の概要と背景

 現行の中学校理科の教科書(全5社)には、優性の形質および劣性の形質の学習に関連して『優性、劣性という語句は優れている、劣っているという意味で使われているのではない』といった注意書きがされている。これを踏まえ、日本遺伝学会は「優性」「劣性」の語を「顕性」「潜性」に変更することを提案しており(日本遺伝学会監修・編「遺伝単」NTS 2017年)、新聞などでも取り上げられている(2017年9月7日付朝日新聞、2017年9月12日付毎日新聞など)。しかし、これらの語を使用した授業を通してどのくらいの生徒が誤った概念を有しているかについて、日本では定量的な調査はなされていなかった。

 こうした中、山野井准教授の研究室は、中学校理科の遺伝学習における「優性」「劣性」の語の使用が、優性の形質とは「生存において有利な形質である」という誤った概念をもたらしているのかどうかについて、遺伝の学習を終えた中学3年生113人を対象に、質問紙を用いて調査した。その結果、教科書で扱われていない形質ほど「生存における有利性」を基準に優性かどうかを判断する傾向があった(図)。




また、例えば「丸い種子」と「しわのある種子」のような2つの形質を挙げ、どちらの形質が優性だと思うかを尋ねたところ、「エンドウの草丈の高さ」と「架空の植物の葉の大きさ」に関しては約50%の生徒が「分からない」と回答した。交配実験の結果が分からない場合には「どちらが優性かは判断できない」と回答するのが適切だが、そのように答えた生徒はほとんどいなかった。以上から、多くの生徒は「交配実験の結果を踏まえて、どちらの形質が優性かを判断する」ことを理解していなかったと考えられる。

さらに今回の研究では、生存に適さない優性形質を授業の題材とすることで、生徒の誤った概念を改善できるかどうかを検証した。

 教科書で扱われている形質は、エンドウの草丈の高さのように、優性形質の方が「生存に有利である」と考えられるものが多いため、生徒の誤概念を強化してしまう可能性がある。そこで本研究では、キリギリスの1種(Amblycorypha oblongifolia)の体色の遺伝様式を授業の題材とした。このキリギリスには緑色とピンク色の体色の個体がいるが、ピンク色の方が優性であることが交配実験により確かめられる。しかし、優性形質であるピンク色の個体は野外ではほとんど見られず、これは捕食されやすいためと考えられている。

 授業では、このキリギリスの体色に関して、緑色とピンク色のどちらが優性かを考えさせたところ、多くのグループは緑色を優性形質として選び、その理由として「天敵から身を守るのに有利だから」を挙げた。その後、教師から「ピンク色の個体どうしを交配した結果、ピンク色:緑色=3:1になったことから、ピンク色が優性形質である」ことを説明すると、驚いている様子がみられた。

 授業の教育効果を検討するため、授業後にも質問紙調査を実施。「架空の植物の葉の大きさについて、2つのうち、どちらの形質が優性だと考えられるか」という問題を出題しところ、授業後には「交配実験の結果が分からない場合は、どちらの形質が優性かを判断することはできない」と回答する生徒数が有意に増加した。また「あなたは今回の授業を受ける前に『優性の形質は生存において有利である』という誤った考えを持っていましたか」という質問に対して、約70%の生徒が肯定した。


■今後の期待

 今回の認識調査では誤概念を有していると考えられる生徒の割合は15%程度だったが、授業実践の結果を踏まえると、もっと多くの生徒が誤った概念をもっている可能性がある。認識調査については被験者数が113名と多くはなく、また授業実践に関しても、2クラス(60名)を対象とした結果であり、結果の一般化は早急であると思われる。

 しかし本研究で得られた結果は、さらなる認識調査や中学校理科の授業改善の必要性を訴えるものであり、今後の遺伝学教育研究を促進させる効果は十分期待できると考えられる。


■掲載誌

 山野井貴浩・楢原千琴・谷津潤(2018)

 中学生対象の優性形質に関する認識調査と生存に不適な優性形質を題材とした授業実践

 生物教育(日本生物教育学会誌)59(3):150-157.


■研究者プロフィール

 山野井 貴浩 (ヤマノイ・タカヒロ)

 白鴎大学教育学部准教授

・学位:博士(学際情報学)

・専門分野:理科教育

・受賞:

 2010年1月 日本生物教育学会 奨励賞

 2012年6月 日本進化学会 教育啓蒙賞 など

・著書:「改訂生物」(共著)、「改訂生物基礎」(共著)など



▼研究に関する問い合わせ先

 白鴎大学教育学部・山野井研究室
 TEL:0285-22-8900(代表) 


▼本件取材に関する問い合わせ先

 白鴎大学広報課

 〒323-8586 栃木県小山市駅東通り2-2-2

 TEL:0285-20-8117(直通)

 FAX:0285-22-8901


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