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PRESIDENT OF HAKUOH UNIVERSITY

MESSAGE 3

2013年度卒業式学長式辞

2013年度卒業式学長式辞

「ユートピアを自分の手で」-卒業式・式辞-

学長 奥島孝康


諸君、ご卒業おめでとう。

またご列席のご父母のみなさま、長い間ご苦労さまでした。

心からお慶び申し上げます。


さて、諸君は本学で学び鍛えられ、いよいよ社会へ巣立つ日を迎えました。

さぞかし、大きな期待と希望で「かもめのジョナサン」のように、大空高く舞い上がるような爽快な気持ちでいることでしょう。

しっかり頑張ってください。

諸君ならきっと社会へ出ても、思う存分活躍することができると信じております。

もとより、社会には、諸君が考えているよりはるかに厳しい現実、試練が待ち構えていることでしょう。

しかし諸君はこの大学で育んだ「夢」を決して手離してはなりません。

諸君が目指した人生の「理想郷」あるいは「桃源郷」は、16世紀の大思想家トマス・モアの著作『ユートピア』(岩波文庫)のようなものでしょう。


ユートピアとはギリシア語で「どこにもない」という意味ですから、求めてみても、それこそカール・ブッセの詩の一節にあるように、「噫、われひとゝ尋めゆきて、涙さしぐみ、かへりきぬ」ということになりかねません。

しかし、だからといって、人生は決してむなしいものではありません。


トマス・モアの親友であの有名な『痴愚神礼讃』(中公文庫)の著者であるエラスムスは、「汎ヨーロッパ人」として知られる、すばらしい人文主義者(ヒューマニスト)でありました。

いまヨーロッパ共同体(EU)は新しいヨーロッパの創造のために「エラスムス計画」に基づいて、EU加盟国の大学生の教育レベルを上げるために、壮大な教育プログラムに取り組んでいます。

つまり、現世に「ユートピア」を創造しようと真剣に取り組んでいるのです。

では「ユートピア」とはどのような理想国家を言うのでしょうか。

それは、平和を愛する国民による自由と規律を尊ぶ理想国家であり、そこには「戦争で得られる名誉ほど不名誉なものはない」と考える人々が住んでいます。


EUはまさにそのようなユートピアを創造するために設立された超国家なのです。

それゆえ人間は歴史上常にこのユートピアを追い求めてきたのですが、それはやっぱり「どこにもない」のです。

だからこそ、EUの策定したエラスムス計画は、「どこにもないユートピア」を創造しようという夢の現実に努めているのです。


諸君はおそらく、現実の社会に出て行くと、きっとがっかりしたり、打ちのめされたりすることがあることでしょう。

それは、すべての人たちが必ず出会う人生の試練なのです。

そんなとき、諸君には、自分たちの青春時代に大きな夢を育んだ本大学での学生生活を想い出してください。

白鷗大学は決してこの小山の地からなくなることはありません。

ですから、諸君は人生につまずいたり、希望を失ったりすることがあれば、もう一度なつかしいこのキャンパスに帰ってきて、それぞれがここで育んだ夢をもう一度想い出して、勇気を取り戻すのです。

諸君は、ここで先生たちや仲間たちとゼミや部活でユートピアを創った思い出があるではありませんか。

そのことを想い出すのです。


私も、いまだに山の仲間と、行きつけの山小屋の薪ストーブを囲み、酒に陶然となりながら、馬鹿話をしているときが一番幸せです。

それが私のユートピアなのです。

ユートピアはその意味で、自分たちの手で創り出すものなのです。

EUはまさにそのことに着手しているのです。

それは手の届かぬ「山のあなた」にあるものでも、「山のあなたの空遠く」に追い求めるものでもなく、自分の手で創り出すものなのです。


フランスのパストゥールは「近代細菌学の開祖」と呼ばれる偉大な科学者ですが、ブドウ酒の酒石酸の研究からスタートし、晩年再び酒石酸の研究に立ち戻り、こういう言葉を残しております。


「Il y a plus de philosophie dans une bouteille de vin que dans tous les livres.」


つまり、「すべての書物の中よりも一本のブドウ酒の瓶の中に、より多くの人生の知恵がつまっている」という意味です。

人生は考えようによっては、いくらでも豊かなものにすることができます。

「青い鳥」は身近にいるのです。

諸君は、ユートピアは遠くに追い求めるものではなく、諸君の職場で、家庭で、仲間で、ユートピアを創り出すことができるのです。


私もユートピアを求めて、世界一幸福な国ブータンとか、ヒルトンの『失われた地平線』(河出文庫)という小説に描かれている桃源郷の名を冠した中国雲南省の「シャングリ・ラ」とかあちこちを訊ね歩きました。

しかし、どこにもユートピアはありませんでした。

そうしているうちに、いつも通っている奥秩父のある山小屋の一夜こそが私のユートピアだったことに気がついたのです。


諸君、人生は他人から与えられるものではありません。

人生は自分で創り出すものなのです。

諸君ならそれができる。

決して焦らず、力を尽くして、着実に自分の自身人生を切り開いてください。


諸君の社会でのご健闘を心からお祈りいたします。